メルツェン

メルツェンは、ドイツ・バイエルン地方で中世から造られている伝統的なビールスタイルで、その名前は「3月」を意味するドイツ語に由来します。もともと、メルツェンは夏の高温を避けるために、3月に仕込まれて秋まで貯蔵されていたビールです。冷蔵技術が存在しなかった時代、夏の暑さでビールが腐敗しやすかったため、メルツェンは低温で長期熟成されるように造られていました。

このスタイルのビールは、濃い琥珀色から銅色の色合いを持ち、モルトの甘みとわずかなトーストした風味が特徴です。ホップの苦味は控えめで、まろやかでバランスの取れた味わいが楽しめます。メルツェンは、秋のオクトバーフェストで提供されるビールとしても有名で、このビールが持つリッチな風味が、祭りの料理や雰囲気と完璧にマッチします。

オクトバーフェストでは、特に大きなビアガーデンで、ソーセージやプレッツェルとともに楽しむのが伝統です。メルツェンは、そのリッチでしっかりとした味わいが料理の風味を引き立てるため、焼き鳥やローストした肉料理、さらにはチーズとの相性も抜群です。

興味深いエピソードとして、19世紀初頭にバイエルンの醸造家ガブリエル・セドルマイヤーが、ビールの保存性を向上させるために、当時最新のラガー醸造技術を用いてメルツェンを改良したと言われています。この技術により、メルツェンはオクトバーフェストで大量に供給されるようになり、ドイツ国内だけでなく世界的にも知られるビールスタイルとなりました。

その伝統を今に引き継ぎ、メルツェンは秋の到来を感じさせるビールとして、季節の料理や収穫祭のシーンで愛され続けています。